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my favorite things 91-100

 my favorite things 91(2013年3月8日)から100(2013年3月26日)までの分です。 【最新ページへ戻る】

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 91. 1971年の『土曜日の本』(2013年3月8日)
 92. 1972年の『土曜日の本』(2013年3月9日)
 93. 1973年の『土曜日の本』(2013年3月10日)
 94. 1975年の『土曜日の本』(2013年3月11日)
 95. 1981年の『土曜日の本・傑作選』(2013年3月12日)
 96. 1935年の『薩藩の文化』(2013年3月13日)
 97. 1938年の『風車小屋だより』(2013年3月19日)
 98. 1981年の『九百人のお祖母さん』(2013年3月23日)
 99. 1977年の『レイノルズ・ストーン木版画集』(2013年3月24日)
 100. 1959年の『グウェン・ラヴェラの木版画』(2013年3月26日)
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100. 1959年の『グウェン・ラヴェラの木版画』(2013年3月26日)

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グウェン・ラヴェラ(Gwen Raverat,1885~1957)が亡くなって2年後に出された作品集です。レイノルズ・ストーン(Reynolds Stone,1909~1979)が取り仕切った1冊です。とても慎ましい1巻本選集ですが,レイノルズ・ストーンの気配りが行き届いていて,とても好ましい本になっています。版元はFABER & FABERです。印刷は,The University Press Cambridgeです。

印刷に凝る私家版や限定版などではなく,一般書として出版されていますが,印刷には贅沢をしている本です。この作品集に収録するにあたって,グウェン・ラヴェラが彫った版木が残っているものは,その版木から直接印刷しているのです。版木が反ったりして状態の悪いものは,新たにマグネシウム・ブロックをつくって印刷しています。

当時の本の価格は42sです。1959年の『土曜日の本』が30sですから,特別高価でもありません。こうした印刷の本を一般書として出版できたというのは,やはり活版印刷の時代ならではの贅沢です。現在,同じようにしてオリジナルの版木から印刷して版画作品集を制作するとしたら,ものものしい価格設定になりそうです。

グウェン・ラヴェラの生前に刊行された一般書籍印刷物の多くは,ケンブリッジのThe University Pressで,マスター・プリンターのウォルター・ルイス(Walter Lewis)が印刷していました。レイノルズ・ストーンは,1930年代にウォルター・ルイスのもとで学んだ人で,ルイスは,オリジナルの版木から印刷するのを好んだ人だったそうです。普通は版木から電鋳版やステロ版をつくって印刷するのですが,木版から直接印刷すると,電鋳版より豊かな黒が出るという主張をルイスは譲らなかったそうです。そのルイスの流儀にならって,この本も作られています。

 

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▲クロス表紙

 

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▲タイトルページ

 

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▲『グウェン・ラヴェラの木版画』のページから。ケネス・グレアム(Kenneth Grahame)編『ケンブリッジ版こどものための詩の本(THE CAMBRIDGE BOOK OF POETRY FOR CHILDREN)』(1932年版)用の小さな木版挿画。

 

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99. 1977年の『レイノルズ・ストーン木版画集』(2013年3月24日)

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イギリスの木版画家・レタリング作者レイノルズ・ストーン(Reynolds Stone,1909~1979)が生前最後に出した作品集です。JOHN MURRAY社が1977年に出版しました。印刷はCurwen Pressです。

テキストとして,レイノルズ・ストーン本人による「序文(INTRODUCTION)」「木版についてのノート(A NOTE ON WOOD ENGRAVING)」と美術史家ケネス・クラーク(Kenneth Clark)の「讃(AN APPRECIATION)」が巻頭にあり,500点を超える木版作品が収められています。

ダストラッパー付き通常版と,箱入りでナンバリングされた150部限定版があります。手もとにあるものは,見返しに造本家ダグラス・コッカレル(Douglas Cockerell,1870~1945)のマーブル紙が使われている限定版仕様なのですが,ナンバリングされていません。限定版に附属しているサイン入りの木版("Waterfall, Prescelly Mountains, South Wales")もついていない,そして箱なしの,また,普及版のダストラッパーもない,ちょっと半端な版です。たぶん限定版制作の際,多めにつくられたものの1冊か思います。

よくできた1巻本選集で,見ていて飽きない1冊です。

使われている活字書体は,レイノルズ・ストーン本人が1950年代にデザインした「JANET」という書体です。「JANET」という名前は,レイノルズ・ストーンの奥さんの名前からとられています。さらに,この本には「FOR JANET」という献辞も印刷されています。愛妻家というか,究極の捧げ物です。自分がつくった書体で本を作る人は少なからずいると思いますが,その書体に自分の愛する人の名前をつけ,その人に本を捧げたという例は外に知りません。この本は,生涯を賭けた贈り物になっているわけです。

 

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ベンジャミン・ブリテン(Benjamin Britten)の「春の交響曲(Spring Symphony)」(1949年)で歌われたり,ヴァージニア・アストレイ(Virginia Astley)のファースト・ソロ・アルバム(1983年)のタイトルにもなったりしている「From gardens where we feel secure(私たちが安心と感じる庭から)」という詩句があります。1933年にオーデンが書いた「ある夏の夜(A Summer Night)」という詩の一節です。心地よく美しい英国庭園にこもって,外の世界の変化から目をそらしていることと解釈することもできる詩句です。

レイノルズ・ストーンは,いわば,その「gardens where we feel secure」にこもって,小さくて美しいものを作り続けた人です。ケネス・クラークは,レイノルズ・ストーンの作品の根底にあるものを「自然への詩的な愛」と「職人の完璧主義」の2つだと述べた上で,レイノルズ・ストーンの現実逃避的な傾向について次のように述べています。

Thirty years ago the word escapist was still a term of abuse. Now that we have so much more to escape from we may view the concept more tolerantly. But even if it is still reprehensible for the average man to shut his eyes to the conditions of his time, no one with any knowledge of artists will deny that they can be escapists without detriment to their art. In order to realise a compulsive dream a certain degree of withdrawal is necessary. Perfection is best achieved in solitude. The perfection achieved in Reynolds Stone's lettering, decorative emblems and microcosms of nature is dependent on a stillness and concentration which daily contact with the world would not have allowed. The volume of his work is large, the works themselves very small, and at first we may feel in them a certain element of repetition. But if we look as carefully and attentively as he does, we can see how each one records, with loving precision, an individual experience.
(試訳: 30年前に、現実逃避者ということばは,まだ罵倒のことばでした。わたしたちは逃れるべきものをより多く抱えるようになっていますので、その概念をより寛容にながめたいところです。しかし、ふつうの人にとって,同時代の状況に目をつぶることは、とがめるべきふるまいであるにしても、芸術家たちについて理解がある人ならば,その芸術をそこなうことなく現実逃避主義者でありえることまでは否定できないと思います。やむにやまれぬ夢を実現するためには、引きこもりもある程度まで必要なのです。完全は、孤独の中で,もっともよく達成されるものです。レイノルズ・ストーンのレタリング、装飾的なエンブレム,自然描写の小世界の中で達成された完全は、日々現実世界と取り結んでいたら得られない静けさと集中によるものなのです。レイノルズ・ストーンの仕事の量は大きく、一方で作品自体はとても小さいものです。初めて見たときには,その作品に繰り返しの要素を感じるかもしれません。しかし、ストーン本人が行ったのと同じくらい注意深く観察すれば、私たちはそれぞれの作品が愛情ある正確さで、どんなに個々の経験を刻み込んでいるか見ることができるのです。)

ケネス・クラークは「完全(Perfection)」ということでレイノルズ・ストーンの作品を評価していますが,完璧・完全というより,どこかぎこちないところがレイノルズ・ストーンの魅力のような気がします。愛する人に贈るため,自分の全てを使って本をつくるということも,現実逃避者(escapist)だからこそできた不器用なふるまいだったのかもしれません。

 

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▲レイノルズ・ストーンが1935年に出したレタリング見本集。これは1943年のリプリントです。A. & C. Blackは,実践的な技法書を出している版元です。

 

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▲1959年のレイノルズ・ストーン展のカタログ小冊子(16ページ)。

 

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▲1982年V&Aでのレイノルズ・ストーン展のカタログ小冊子(88ページ)。息子のハンフリー・ストーン(Humphrey Stone)もブックデザイナーで,このカタログをデザインしています。小ささが魅力的なカタログです。

 

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98. 1981年の『九百人のお祖母さん』(2013年3月23日)

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R. A. ラファティ(Raphael Aloysius Lafferty,1914~2002)の『九百人のお祖母さん(Nine Hundred Grandmothers)』のオリジナル版は1970年に刊行されています。1960年から1970年にかけて発表された21の短編作品を選んだものです。邦訳は1981年,早川書房から出ていて,浅倉久志の翻訳で,装幀は畑農照雄です。

良くも悪くも70年代的なもの,あるいは70年代に流通していた50年代的・60年代的なものにひかれ続けています。色あせたもの,飽きたものものも,いろいろありますが,ラファティは飽きないもののひとつです。

浅倉久志と伊藤典夫が翻訳したラファティのとぼけきった小説世界は,70年代の少年にとって,解放された世界というか自由な無法地帯でした。『九百人のお祖母さん』は最初のラファティ翻訳本です。雑誌やアンソロジーに収録されているのが楽しみだったラファティの短編を,まるまる1冊の形で読めるというのは,とっておきのお菓子の詰め合わせを与えられたようなものでした。

ラファティは,禁酒のためにその代用として小説の執筆を始め,デビューは1960年,45歳の時ですから遅い方です。第2次世界大戦で太平洋戦線に従軍後,電気会社に勤め,専業作家になるのは50歳代後半です。SF作家として知られるようになった後,公の場所での目撃例は,酔いつぶれている姿ばかりですから,禁酒に成功したとは言えないようです。つまらない酔っぱらいの与太話のはずが,ラファティの手に掛かると,うそのように面白くなってしまう,そんな印象があります。自ら「保守的な部類のカトリック教徒」とも言っていて,カトリック文学的綺想の系譜に連なる人でもあるのかなと思います。ときどき,この世の中に現れる,聖なる酔っぱらいだったのでしょう。

そういえば,2011年にラファティの遺産管理者が,ラファティの29の長編と225の短編の著作権を競売に出すという話がありましたが,その後どうなったのでしょうか。古典として残っていく作家だと思いますが,没後の作品の扱われ方は,まだまだ不安定です。

マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp, 1887~1968)の代表作に『彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁,さえも (La Mariée mise à nu par ses célibataires, même) 』(1915~1923年)という,とても詩的なタイトルの作品があります。ラファティというと,その「独身者たち」の1人だったのではないかと思うことがあります。

「独身者」的な存在が登場する映画に,ハリウッド映画『教授と美女(Ball of Fire)』(1941)という,『白雪姫』の男女逆転版のコメディがあります。ハワード・ホークス監督作品です。この映画では,7人のこびとならぬ7人の独身教授に見守られるアメリカン・スラングの若手研究者ゲーリー・クーパーが白雪姫の立場になり,『白雪姫』で言えば王子様役の,ものすごい言葉遣いのバーバラ・スタンウィックと結ばれるまでを描いています。

そうしたものが入り交じって,マルセル・デュシャンの「花嫁」は白雪姫,「独身者たち」はこびとという連想が働いて,「独身者たち」の人数は7人に違いないと決めつけています。生涯独身だったラファティは,その20世紀の「独身者たち」の1人として,まず頭に浮かぶ名前です。ほかには,ジョセフ・コーネル(Joseph Cornell,1903~1972)の名前も浮かびます。さて,あと5人はだれがふさわしいのでしょう。

 

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▲『宇宙舟歌』の翻訳も部屋のどこかあるはずなのですが,どこかに紛れ込んでしまっているようで,今日は見つけられませんでした。

 

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ラファティは,装釘者に恵まれていないような気がします。

 

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97. 1938年の『風車小屋だより』(2013年3月19日)

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網点分解の写真製版印刷物やディスプレイばかり見ていると,目がどんよりした気分になってきますので,そうしたものから目をそらします。
その点,同じ印刷物でも,木版やポショワールは,目が生き返るような気分になるものがあります。赤・青・黄・黒4色を合成して色を作るというのは基本的に不自然なので,脳に無理をさせているのではないかと思います。合成された色彩は,顔料の色ひとなでに敵わないところがあります。

ということで,アンドレ・マルティ(André E. Marty)のポショワール挿画が入ったL'ÉDITION D'ART H. PIAZZA版の『風車小屋だより(LETTRES DE MON MOULIN)』(1938年)です。
アルフォンス・ドーデ(Alphonse Daudet,1940~1897)のオリジナル初版は1869年。20歳代の著作です。
いわゆる田舎暮らしもので,枠物語になっています。南仏プロヴァンスの風車小屋に住み始めたパリの詩人ドーデが,南仏の村人たちの語る伝説や夜話,自分自身のアルジェリアの思い出などを30編の短編にまとめたもので,「アルルの女」が,ビゼーによってオペラ化されたことでも有名です。

挿絵本としては,30編の冒頭文字のイラスト装飾がとても魅力的です。その一方で,語り手として登場するドーデをどう表現するかというときに,いつものマルティ流の,目が点になって,とても簡略化されている人物の描き方でなく,ドーデだけは似顔絵として本人に似せようとしているので,良くも悪くも他から浮いてしまっています。ちょっと失敗かなという気がします。

旅人が田舎町にしばらく住んで,その街の風俗・伝説・民俗・世間話・回想を私的に語るという形式は,応用がきく形式ですが,地方では,より積極的に活用してもよいフォーマットかもしれません。

 

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▲タイトルページ

 

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▲口絵

 

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▲ドーデを描くときだけは,似顔絵の意識があります。「老人(Les Vieux)」のページから。

 

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▲1961年にアンドレ・マルティが書いた初心者向けの遠近法概説書です。『数学や専門用語なしの遠近法(la Perspective sans Mathématiques et sans termes techniques)』というタイトルが,ほほえましいです。この本での肩書きを見ると,1961年ごろアンドレ・マルティは,フランスのアーチスト・デザイナー組合の組合長だったようです。
技法書というのは,本の大きな分野ですが,コンピューターのような手作りが難しいブラックボックスが使用不可能になった世界でも,それを読めばものが手づくりできるような技法書に関心があります。手仕事の領域では定番として確立している「使える」技法書を集めてみると面白いかもしれません。

 

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『数学や専門用語なしの遠近法』のページから。

 

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96. 1935年の『薩藩の文化』(2013年3月13日)

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昭和10年(1935年)に鹿児島市が刊行した薩摩藩の「文化」についての概説書です。
章立てを見ると,
 總論
 第一 宋學
 第二 兵事
 第三 藥園と本草學
 第四 洋式造船並科學的事業
 第五 紡績事業
と,花鳥風月や音曲の気配のない『薩藩の文化』になっていて,いかにもそれらしい1冊です。

執筆陣は,序文が牧野伸顯,岩元禧。
本文の各パートの執筆者は明らかにされていませんが,編纂者として,伊地知峻,山口平吉,湯地定敏,家村助太郎,田森長次郎,池田俊彦,林吉彦,樋渡淸廉,伊地知茂七,奥田啓市,内藤喬,岩元庸造,池田米男,椨木忠志,松下重資,勝目淸,黑江軍太郎,鎌田精一,平川淸高,田中榮介らの名前が,凡例に挙げられています。

注目すべきは,この本の印刷所です。奥付には,「鹿兒島縣教育會印刷部」とあります。

自治・独立についての条件の1つに,印刷・出版すべての作業を自前で行えることがあると思います。さらに,できれば,自前の活字,自前の書体を持っていることが望ましいのですが,日本語の場合,すべての文字を自前で設計することは大事業ですので,たいがい借り物の書体になってしまいます。例えば「薩摩書体」というのを自前でもっていれば,理想的です。

デジタル化の波で,これからは紙の印刷・出版とは違った形で,印刷・出版の形を打ち出していくようになるのでしょうが,自前の印刷部・出版部をもつということは,自治・独立の前提だということに変わりないと思います。そのことを考えると,昭和初期に,コロタイプ印刷もできる「鹿兒島縣教育會印刷部」という自前の印刷部があったということは,とても興味深いところです。
その鹿兒島縣教育會印刷部が印刷した『薩藩の文化』は,図版はすべてモノクロですが,コロタイプ印刷なので,とても良質で見やすいものになっています。本文書体は5号活字(10.5ポイント相当)で,ちょっと古いものですが,ゆったりとして読みやすく,昭和初期の地域出版物として,とてもよい出来の本になっています。

 

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▲『薩藩の文化』の奥付

この『薩藩の文化』の版面に、活字や余白をふくめて、よく似た版面の本があります。夏目漱石の『吾輩ハ猫デアル』の初版(明治38年,1905年)です。

ともにサイズは菊判で,本文書体は明朝体の5号活字です。字間はベタ詰めではなく,1分空きで,
 『薩藩の文化』は,32字×13行
 『吾輩ハ猫デアル』は,32字×14行
と,行数は1行違います。
それぞれの本のページをサンプルとして掲載してみましたが,目立つところで「き」「そ」「た」「て」「な」「の」「も」「り」等の仮名や「來」などの漢字を見比べてみると,『薩藩の文化』と『吾輩ハ猫デアル』で,同じ明治30年代の秀英体活字が使われていることが分かります。
夏目漱石の『猫』初版を印刷したのは,東京の秀英舎(現在の大日本印刷)です。この『猫』で使われた秀英舎の活字と同じ5号活字が,1935年の鹿児島で「鹿兒島縣教育會印刷部」が印刷した『薩藩の文化』でも使われていたわけです。1905年の『吾輩ハ猫デアル』と1935年の『薩藩の文化』は,模倣にせよ何にせよ,同じ組版感覚をもって,作られているわけで,これはなかなか興味深い事実です。

30年の時間差は何を意味するのか,秀英舎の5号活字がどういうルートで鹿児島に入ったのか,同じ判型で同じ活字で1行の文字詰めが32字となった理由は何か,など推理していくと楽しそうです。

 

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▲1905年初版『吾輩ハ猫デアル』上巻の「天璋院様の御祐筆の妹の御嫁に行つた先きの御つかさんの甥の娘」のページから。オリジナルは秀英舎の印刷で,本文の書体は秀英体明朝の5号活字。現在では句読点( 、 。 ・)やカギ括弧(「」『』)などは,基本的に全角扱いなのに対して,1905年版『猫』の組版では,活字と活字の間の一分空きスペースに,句読点やカギ括弧が入れられています。写真は,近代文学館の『吾輩ハ猫デアル』復刻版(昭和45年)から。

 

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▲1935年の『薩藩の文化』では「。」や「『』」の使い方は全角ですが,「、 ・」の使い方は『猫』と同じく字間空きで処理しています。本文の書体は『吾輩ハ猫デアル』上巻(1905年初版)と同じ秀英体明朝の5号活字。この昭和初期の「鹿兒島縣教育會印刷部」所有の活字を使えば,『吾輩ハ猫デアル』と同じ組版も,やろうと思えば作成可能だったわけです。

 

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95. 1981年の『土曜日の本・傑作選』(2013年3月12日)

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●『土曜日の本』その35

 

1981年刊行の『土曜日の本』ベスト選集です。ハッチンソン社のプリンターズ・マークが変わっています。

まえがきで,作家のJ. B. プリーストリー(J. B. Priestley,1894~1984)が「a good mixture」である『土曜日の本』がなくなってしまったことを残念がっています。

2代目編集長ジョン・ハッドフィールドが序文で,『土曜日の本』の歴史を簡単に振り返っています。1941年から1975年まで続いた『土曜日の本』のように,長く続いた年誌は英国では外に例がないこと。第3号から社会史的な読み物にグラフィックな要素をからめる編集を始めたこと。第5号で生粋のコックニー・キャラクター,フレッド・ベイソンや,オリーヴ・クックとエドウィン・スミスらがそろって登場したこと。後に夫婦となるオリーヴ・クックとエドウィン・スミスが『土曜日の本』ビジュアルの礎石となったこと。読むための本でなく見るための本だと評する人もいたが,それでもよいと考えていたこと。「coffee-table book」の元祖とも自負していること。『土曜日の本』という誌名の由来は,ミュージックホールのはやり歌「Sweet Saturday Nights」から初代編集長レナード・ラッセルが命名したこと。12号で編集を引き継いだとき,編集長稼業は3年持たないと考えていたこと。このベストにオリーヴ・クックとエドウィン・スミスのものがないのは,彼らが1955年に『コレクターズ・アイテム』を出版しているから。「イギリスの潜在意識のサンプル瓶」と評されたこと。19世紀末の『イエローブック』のような文学的影響力はなかったが,時代の指向への影響力は確かにあったと自負していること。1920年代(The Twenties)への関心,アール・ヌーヴォー,アール・デコ,オーブリー・ビアズリー,L. S. ロウリー,ルネ・マグリットへのイギリスでの関心を高めたのは間違いなく『土曜日の本』だったということ。この選集で,あの懐かしい『土曜日の本』が持っていた雰囲気を再び愉しんでもらえれば幸い。といったことを述べています。

 

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『THE BEST OF The Saturday Book』の内容

THE BEST OF The Saturday Book
EDITED BY JOHN HADFIELD

HUTCHINSON

Printed in Great Britain by George Over Ltd
London and Rugby, and bound by
Wm Brendon & Son, Ltd, Tiptree, Essex
1981

ISBN 0 09 145990 7

Illustrations by Edward Ardizzone, Zelma Blakely, Salvador Dali, Erté, David Gentleman, Charles Keene, Ronald Searle, and Leslie Thompson.
The decorative initial letters were drawn by William McLaren.
The endpaper drawings are by Michael Felmingham.

ダストラッパー: Philip Goughのイラスト。コーティング。

 

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▲見返しにMichael Felminghamのイラスト。

 

『THE BEST OF The Saturday Book』の目次

001 half-title モノクロ図版1点。
002 口絵: John Astbury(1688~1743)の陶器人形。〔1954年第14号〕
003 title page 絹にStevengraphで描かれた蒸気機関車(1825)〔1970年第30号〕

005 まえがき(Foreword): J. B. PRIESTLEY モノクロ図版1点。
006-11 序文(Introduction): J. H.
『土曜日の本』のように1941年から1975年まで,長く続いた年誌は英国では外に例がない。この選集で,あの懐かしい『土曜日の本』が持っていた雰囲気を再び愉しんでもらえれば幸い。カラー図版3点・モノクロ図版3点。
012-013 目次(Contents)

014-016 THE LOOKING GLASS OF TASTE カラー図版2点〔1955年第15号〕・モノクロ図版2点〔1972年第32号〕。
017-025 完璧な紳士(The Perfect Gentleman): JILLY COOPER 〔1975年第34号〕モノクロ図版1点。
026-030 完璧な淑女(The Perfect Lady): ARTHUR MARSHALL〔1975年第34号〕
031 奥様,アキレス腱が見えております(Madam, your Achilles Tendon is Showing): OGDEN NASH〔1954年第14号〕
032-041 1920年代の美女(Beauty in the 'Twenties): CECIL BEATON〔1968年第28号〕モノクロ写真9点。
042-048 ヴィクトリア期のピンアップガール(Pin-ups of the Past): RAYMOND MANDER AND JOE MITCHENSON〔1975年第34号〕モノクロ図版12点。
049-052 悪党を出せ(Bring on the Fiends): P. G. WODEHOUSE〔1957年第17号〕
053-054 (詩)スタンリー・マシューズ(Stanley Matthews): ALAN ROSS〔1957年第17号〕David Gentlemanのモノクロ挿画1点。
055 (詩)イチジクの下の乙女(Girl under Fig-tree): LAURIE LEE〔1969年第29号〕
056-59 絵画の死(The Death of Painting): EVELYN WAUGH〔1956年第16号〕
060-061 手稿の収集品(A Collector's Piece): GEORGE SIMS〔1956年16号〕
062-079 笑いの達人(Making Them Laugh): PAUL JENNINGS〔1971年第31号〕モノクロ写15点。
080-088 ドラムの男(The Man behind the Drums): JAMES BLADES〔1969年第29号〕モノクロ写真1点。
089 (詩)太陽と愉しみ(Sun and Fun): JOHN BETJEMAN〔1952年第12号〕
090-096 ジャズの黄金時代(The Golden Age of Jazz): HUMPHREY LYTTLETON〔1952年第12号〕
097-106 アステア(Astaire): J. J. CURLE〔1970年第30号〕モノクロ写真10点。
107-112 ローレンス・ホイッスラーのガラス絵(Laurence Whistler's Pictures on Glass)〔1970年第30号〕モノクロ写真6点。
113-118 ディズニーのプロフィール(Disney Profiles): DILYS POWELL〔1943年第3号〕モノクロ図版2点。
119-124 パラディウムを熱狂させた夜(Palladium Nights): J. W. LAMBERT〔1954年第14号〕
125-129 俳優であること(On Being an Actor): LAURENCE OLIVIER〔1945年第5号〕ダリによる肖像画1点。

130 ASPECTS OF ART
131 アール・ヌーヴォー再び(The Return of Art Nouveau)〔1962年第22号〕モノクロ図版3点。
132-133 ハワード・スプリング,L. S. ローリーを語る(Howard Spring on L. S. Lowry)〔1957年第17号〕カラー図版2点。
134-135 ハーバート・リード,ジョン・タナードを語る(Sir Herbert Read on John Tunnard)〔1965年第25号〕モノクロ図版2点。
136 フェリックス・ケリーのロマンティックなアメリカ(Felix Kelly's Romantic America)〔1969年第29号〕カラー図版1点。
137 土曜画家プリーストーリー(Priestley as Painter)〔1969年第29号〕カラー図版1点。
138-141 ルネ・マグリットの世界(The World of René Magritte)〔1959年第19号〕モノクロ図版2点・カラー図版2点。
142-144 アール・デコの発見(The Discovery of Art Déco)〔1972年第32号〕モノクロ図版2点・カラー図版1点。
145-153 オーブリー・ビアズリー(Aubrey Beardsley): W. G. GOOD〔1965年第25号〕 2色図版4点・カラー図版4点。
154-157 運河船のバロック的装飾(Canal Boat Baroque): JOHN O'CONNOR〔1962年第22号〕2色図版4点。
158-163 魚についての考察(Thoughts on Fish): ROBERT GIBBINGS〔1956年第16号〕モノクロ図版3点。
164-170 窓辺の鉢植え(Cottage Window Plants): JOHN NASH〔1957年第17号〕モノクロ図版4点。
171-175 輸送用帆船(The Sailing Barge): JOHN LEWIS〔1972年第32号〕Zelma Blakelyの木版2点。
176-182 庭園内の休憩場所(Sitting in the Garden): MILES HADFIELD〔1957年第17号〕Michael Felminghamの挿画3点。
183-188 喫煙術(The Art of Smoking): J. B. PRIESTLEY〔1971年第31号〕
189-194 蒸気式農業用トラクター(Down on the Farm): L. T. C. ROLT〔1970年第30号〕Leslie Thompsonの挿画2点。

195 IN SEARCH OF THE PICTURESQUE
195-199 エメラルドの島―アイルランド(The Emerald Isle): PATRICK CAMPBELL〔1960年第20号〕
200-205 運河風景(On Waterways): GEORGE MACKLEY〔1968年第28号〕木版挿画6点。
206- ベチェマンが選ぶ英国風景(Betjeman's Britain): JOHN BETJEMAN〔1958年第18号〕EDWIN SMITHの写真30点
234 ガーティ・ドイッチェの写した日本(Gerti Deutsch's Japan)〔1963年第23号〕モノクロ写真1点。
235 スティーフン・ハリソンの写したバンコク(Stephen Harrison's Bangkok)〔1965年第25号〕モノクロ写真1点。
236 ジョン・ゲストが写した北アフリカの古代ローマ遺跡(John Guest's Sands of Time)〔1966年第26号〕モノクロ写真1点。
237 ハモンド・イネスが旅した洞窟絵画の南仏(Hammond Innes' Country of the Caves)〔1969年第29号〕モノクロ写真1点。
238 ジョン・マースが写したアメリカン・ゴシック(John Maas's American Gothic)〔1962年第22号〕モノクロ写真1点。
239 アリステア・ダンカンが写した岩のドーム(Alistair Duncan's Dome of the Rock)〔1967年第27号〕モノクロ写真1点。
240 バーバラ・ゴンパーツが写したヴェニス(Barbara Gompertz's Venice)〔1959年第19号〕モノクロ写真1点。
241-245 フィリップ・ゴフの描く19世紀初頭の海辺の街(Philip Gough's Seaside Regency)〔1955年第15号〕2色図版5点。
246 ローレンス・スカーフェの描くモロッコ(Laurence Scarfe's Morocco)〔1956年第16号〕モノクロ図版1点。

247 VERSE - AND WORSE
247-251 (詩)クラリヒューで書く作曲家(Composers in Clerihew): NICOLAS BENTLEY〔1958年第18号〕2色図版5点。
252-256 (詩)あら,いったいどうしたの(Oh dear! What can the matter be?): CHARLES CAUSLEY〔1959年第19号〕2色図版7点。
257-259 (詩)外向的(Extrovertigo): DENYS BLAKELOCK〔1957年第17号〕RONALD SEARLEの挿画3点。

260 IN RETROSPECT
260- 1896年から1946年の過去50年(Footnotes on Fifty Years): SIEGFRIED SASSOON〔1946年第6号〕
266 (詩)1914(MCMXIV): PHILIP LARKIN〔1960年第20号〕
267-270 棚の中の拳銃(The Revolver in the Corner Cupboard): GRAHAM GREENE〔1946年第6号〕
271-275 少年小説の作家であること(On Being a Boy's Writer): FRANK RICHARDS〔1948年第8号〕モノクロ図版3点。
276-282 イギリス工兵隊の当番兵の回想(Memoirs of a Batman): ANONYMOUS〔1952年第12号,1954年第14号〕Edward Ardizzoneの挿画3点。
283-287 郵便番号S.E.17からの小話(A Trifle from S.E.17): FRED BASON〔1958年第18号〕

288-319 『土曜日の本』のアルファベットAからZまで(AN ALPHABET OF SATURDIURNALIA) カラー図版19点・モノクロ図版17点。

320 後記(AFTERWORD): RONNIE BARKER

 

1981SaturdayBook_titlepage

▲タイトルベージ。『土曜日の本』には,小さくて奇妙なものへの根強い愛好がありました。

 

1981SaturdayBook_ArtDeco

 『土曜日の本』は,アール・デコの女性フィギュアやビアズリーなど,一度流行遅れになったものを再評価する場所でもありました。

 

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94. 1975年の『土曜日の本』(2013年3月11日)

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●『土曜日の本』その34

 

1975年刊行の『土曜日の本』最終号,第34号です。見返しは薄青色の紙でパターン無し。本文用紙に白色の紙のほかに,薄緑色の紙も使用しています。ページ数も今まで最も少ない240ページです。

序文で,まず,1974年に刊行できなかったことを謝っています。そのいちばんの理由は,オイルショックです。オイルショックに続いて起こった1974年1月~2月のイギリスの経済危機で,印刷,製版,製本業が週3日操業体制になり,1974年内の刊行が不可能になりました。さらに,こうした経済環境の中で『土曜日の本』の継続は難しいと,この号を最終号とするという判断が下されます。また,序文では,創刊者のレナード・ラッセルが1974年11月7日に亡くなったこと,また,常連寄稿者フレッド・ベイソンが1972年に急逝したことも報告しています。序文には書かれていませんが,編集長ジョン・ハッドフィールドは,寄稿者でもあった奥さんのアンナを1973年に亡くしています。そうしたもろもろが重なって,35年目の『土曜日の本』終刊決定でした。

終刊号ではありますが,内容はいつも通り賑やかです。パントマイム,1863年創刊の『La Vie Parisienne』の女性イラスト,ロマンティックな小説家ジェフリー・ファーノル,オピー夫妻が選ぶ仕掛けのある絵本,1920年代以前のピンナップガールズ,スクラップの切り抜きと手書き文字で構成するナンシー嬢の物語,完璧な紳士のふるまい,完璧な淑女のふるまい,ヴィクトリア期のロビンソンクルーソーの後継者,詩人・歴史家ウィリアム・ジョンソンがイートン校教師を辞めるに至った経緯,18~19世紀バリモア伯爵家のぼんくら兄弟,1914年のダービーの1日,サレントのゴシック建築,カーディフ城とヴィクトリア期ゴシックの建築家ウィリアム・バージェス,シドニー・シームが描く幻想世界,ヴィクトリア期のペザー家の画家たちが描く月夜の光景,ガラスの鈴,写真で見比べるヴィクトリア期と今などを取り上げています。

『土曜日の本』の35年を,ほぼ1年=1日のペースで駆け足で振り返ってきましたが,ここで改めて,キング・クリムゾンの1973年発表の曲「Book of Saturday」を聴きますと,
You make my life and times
A book of bluesy Saturdays
And I have to choose...
という歌詞に,偶然とはいえ,ある世代が35年の人生の時をともにしてきた『土曜日の本』を終わらせることを選んだことと重なって,『土曜日の本』の鎮魂歌のように聴こえます。

 

1975SaturdayBook_cover

 

『The Saturday Book 34』の内容

The Saturday Book
EDITED BY JOHN HADFIELD
34
PUBLISHED BY HUTCHINSON

THE SATURDAY BOOK was founded in 1941 by Leonard Russell and has been edited since 1952 by John Hadfield.
This thirty-fourth annual issue has been made and printed in Great Britain by The Anchor Press Ltd, and bound by Wm Brendon & Son Ltd, both of Tiptree, Essex.
1975

ISBN 0 09 124650 4

ダストラッパー: Craig Doddのデザイン。コーティング。

『The Saturday Book 34』の目次

001 half-title
002 口絵: Samuel Ricardの版画「Trauté Général du Commerce」(1705)をもとに。「1941-1975」と表記。
003 title page
005-007 Introduction: J. H.
1974年に刊行できなかったことの謝罪。オイルショックから1974年1月~2月のイギリスの経済危機で,制作コストの高騰もあり,今号で終刊することを決めたという報告。
008 Contents(目次)

009 POPULAR ARTS ジョージ・クルックシャンクのモノクロ図版1点。
010-023 Pantomime: GEORGE SPEAIGHT
(グラフィック・エッセイ)パントマイム。カラー図版6点・モノクロ図版5点。
024-044 La Vie Parisienne: ANTONY D. HIPPISLEY COXE
(グラフィック・エッセイ)1863年創刊の『La Vie Parisienne』の女性イラスト。カラー図版4点・モノクロ図版10点。
045-052 The World of Jeffery Farnol: E. S. TURNER
(エッセイ)過度にロマンティックな小説家ジェフリー・ファーノル(1878~1952)。
053-060 Pop Poems: J. J. CURLE
(詩)ポップス的な詩7編。
061-079 Books that Comes to Life: IONA & PETER OPIE
(グラフィック・エッセイ)オピー夫妻が選ぶ仕掛けのある絵本。DERRICK WITTYのカラー写真8枚・モノクロ写真16枚。最終号にオピー夫妻登場です。『土曜日の本』に打ってつけの書き手ですから,遅すぎた気もします。
080-096 Pin-ups of the Past: RAYMOND MANDER AND JOE MITCHENSON
(グラフィック・エッセイ)1920年代以前のピンナップガールズ。モノクロ図版31枚。
097-112 The Story of Nice Nancy: Ronnie Barker
(グラフィック・ストーリー)スクラップの切り抜きと手書き文字で構成するナンシー嬢の物語。

113 HOW TO BEHAVE チャールス・キーンのモノクロ図版1点。
114-125 The Perfect Gentleman: JILLY COOPER
(エッセイ)完璧な紳士のふるまい。19世紀の『紳士エチケット大全(The Complete Etiquette for Gentlemen)』を読み解く。
126- The Perfect Lady: ARTHUR MARSHALL
(エッセイ)完璧な淑女のふるまい。19世紀末のマナー本を読み解く。チャールス・キーンのモノクロ図版1点。

134 PERSONAL PAGES
135-147 The Victorian Crusoe: BEVIS HILLIER
(エッセイ)ヴィクトリア期のロビンソンクルーソーの後継者。19世紀末の『Wide World Magazine』誌掲載の冒険記事(コルヴォ男爵も寄稿)。モノクロ図版4点。
148-156 The School-Leaver: RONALD BLYTHE
(エッセイ)詩人・歴史家ウィリアム・ジョンソン(William Johnson Cory,1823~1892)がイートン校教師を辞めるに至った経緯を手紙と日記から読み解く。
157-166 Hellgate, Cripplegate, and Newgate: CHARLES NELSON GATTEY
(エッセイ)18~19世紀バリモア伯爵家のぼんくら兄弟。モノクロ図版2点。
167-170 A Day at the Derby: H. BERRY
(エッセイ)1914年のダービーの1日。

171 A CABINET OF CURIOSITIES ジョージ・デュ・モーリエのモノクロ図版1点
172-183 The Baroque of Salento: LAURENCE SCARFE
(フォト・エッセイ)イタリアのサレントのゴシック建築。モノクロ写真9点。
184-201 The Fabric of a Dream: Olive Cook
(フォト・エッセイ)カーディフ城(Cardiff Castle)とヴィクトリア期ゴシックの建築家ウィリアム・バージェス(William Burges,1827~1881)。オリーヴ・クックは第5号から第34号終刊号まで毎号寄稿しました。EDWIN SMITHのモノクロ写真13点。ジョサイア・コンドルは来日前,バージェスの建築事務所で働いていました。ロンドン滞在中の辰野金吾もバージェスのもとで学んでいます。明治日本の建築家たちへの影響力もあった人物です。
202-215 The Fantasy World of Sidney Sime: JOHN LEWIS
(フォト・エッセイ)シドニー・シームが描く幻想世界。JOHN WEBB撮影のカラー図版2点・モノクロ図版5点。
216-221 The Moonlighters
(グラフィック・エッセイ)ヴィクトリア期のPether家の画家が描く月夜の光景。カラー図版2点・モノクロ図版5点。
222-227 The Ring of Glass: ALLAN STACEY
(フォト・エッセイ)ガラスの鈴。JOHN W. R. BARROWのカラー写真1点・モノクロ写真4点。
228-240 THEN AND NOW: PHOTOGRAPHS CHOSEN BY MARY AND ANNE NORBURY
(フォト)写真で見比べる昔と今。昔はヴィクトリア期。モノクロ写真22点。

 

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▲パントマイムのページから。

 

1975SaturdayBook_parisienne

▲『La Vie Parisienne』のページから。

 

1975SaturdayBook_Opie

 オピー夫妻が選ぶ仕掛け絵本のページから。

 

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93. 1973年の『土曜日の本』(2013年3月10日)

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●『土曜日の本』その33

 

1973年の第33号。見返しは薄青色の紙でパターン無し。本文用紙に白色の紙のほかに青灰色の紙も使用しています。

第33号の題材は,奇妙な見出しやタイトルの収集,TVコメディアンのロニー・バーカーの絵はがきなど収集品,オーチャードソンのメロドラマ的絵画世界,象牙とブロンズできたアール・デコの女性像,18・19世紀の銀製ワインラベル,18・19世紀の版画と刺繍絵,航空機マニア,消えゆく古きギリシアの面影,謎の多い人物マウンディ・グレゴリー,脚本家フランク・ハーヴェイの回想,レンブラントの『ヤン・シックスの肖像』の謎,ウェールズの国民酒は何か,宝石彫刻,英国の伝統的麦わら細工,水洗便所の社会史,骨や鉱物など収集品でつくるコラージュ写真,英国各地の秘密の抜け道,スイスで行われるホルヌッセンというゲーム,オリーヴ・クック出題の写真クイズなどです。

今号の目玉のひとつは,ジャケットにも登場する派手なポーズのアール・デコ女性フィギュアです。これはルーマニア出身のデメトル・シパリュス(Demetre Chiparus,1886~1947)の作品。ほかにもドイツのF. プライス(F. Preiss)の作品が知られており,象牙とブロンズでできています。『土曜日の本』の図版キャプションでは「Frederick Preiss」と表記されていますが,フェルディナンド・プライス(Ferdinand Preiss,1882~1943)の誤りかと思われます。本文では「F. Preiss」です。外国名は難しいもので,まだそれらの女性像の作家名が定かでなかったのでしょうか。アール・デコが単なる流行遅れだった1950年代には,ブライスの踊る女性像はまだ店頭在庫が残っていて,新品を捨て値同然で購入できたようです。1960年代になると,サザビーズとクリスティーズの世界に行ってしまい,簡単に入手できるものではなくなりました。流行遅れのものも,30年たつと化ける場合がありますが,そのよい例です。

 

1973SaturdayBook_cover

 

『The Saturday Book 33』の内容

The Saturday Book
EDITED BY JOHN HADFIELD
33
PUBLISHED BY HUTCHINSON

THE SATURDAY BOOK was founded in 1941 by Leonard Russell and has been edited since 1952 by John Hadfield.
This thirty-third annual issue has been made and printed in Great Britain by The Anchor Press Ltd, Tiptree, Essex, and bound by Leighton-Straker Bookbinding Co. Ltd, London.
1973

ISBN 0 09 117490 2

ダストラッパー: Craig Doddのデザイン。コーティング。

『The Saturday Book 33』の目次

001 half-title
002 口絵: デメトル・シパリュス(Demetre Chiparus)のアール・デコ作品。象牙とブロンズで作られた女性フィギュア。
003 title page
005 Introduction: J. H.
33号の「3」はピタゴラスによれば「始まり・中間・終わり」を表す完全な数字。神性を象徴する数字。『土曜日の本』は,メジャーな物事よりマイナーなものを題材とする読み物(reading-matter)の場。
006 Contents(目次)

007 Collectors' ITEMS
008-016 An Odd Collection: PAUL JENNINGS
(グラフィック・エッセイ)新聞や雑誌の奇妙な見出しやタイトルの収集。モノクロ図版1点。
017-034 I Collect Everything: RONNIE BARKER(1929~2005)
(グラフィック・エッセイ)TVコメディアン,ロニー・バーカーは2万点を超える絵はがきを収集。そのほか,コミックカード,フィギュア,絵本など終わらない収集。JOHN WEBB撮影のカラー図版21点・モノクロ図版21点。
035-055 A Tender Chord THE PAINTINGS OF SIR WILLIAM QUILLER ORCHARDSON: WILLIAM R. HARDIE
(グラフィック・エッセイ)ウィリアム・クィラー・オーチャードソン(1832~1910)のロマンティックな楽曲が流れているようなメロドラマ的絵画世界。カラー図版3点・モノクロ図版12点。
056-066 Art Déco Sculpture in Bronze and Ivory: PHILIPPE GARNER
(フォト・エッセイ)象牙とブロンズを材料とした女性フィギュアの名手F・プライス(F. Preiss,1882~1943)やデメトル・シパリュス(Demetre Chiparus,1886~1947)の作品。アール・デコの女性像の典型。カラー図版点・モノクロ図版点。
067-073 Silver Wine Labels: JUDITH BANISTER
(フォト・エッセイ)18・19世紀の銀製ワインラベル。1860年に糊貼りの紙ラベルが登場するまでワインのラベルは銀製。モノクロ図版5点。
074-088 Printwork Embroidery Pictures: SUSAN LASDUN
(フォト・エッセイ)18・19世紀の版画と刺繍絵。モノクロ図版12点。
089-102 Vintage Aircraft: ARTHUR REED
(グラフィック・エッセイ)航空機マニア。LESLIE THOMPSONのモノクロ挿画5点。
103-120 Vanishing Greece: IAN VORRES
(フォト・エッセイ)消えゆく古きギリシアの面影。MARIA CHROUSAKIのモノクロ写真18点。

121 PEOPLE
122-139 Maundy Gregory: LAURENCE MEYNELL
(エッセイ)英国の演劇プロデューサー,謎の多い人物マウンディ・グレゴリー(1877~1941)。
140-150 The Responsible Man: FRANK HARVEY
(エッセイ)脚本家フランク・ハーヴェイ(1912~1981)が,同姓同名の父,脚本家・俳優フランク・ハーヴェイ(1885~1965)の脇役時代の舞台で起こったできごとを語る。
151-158 The Mystery of Jan Six: Brian Bailey
(グラフィック・エッセイ)レンブラントの『ヤン・シックスの肖像』の謎。カラー図版1点・モノクロ図版2点。

A CABINET OF CURIOSITIES
160-168 Welsh Whisky: WYNFORD VAUGHAN-THOMAS
(エッセイ)ウェールズの国民酒は何か。19世紀末に蒸留が途絶えたウェールズのウィスキー。
169-174 Engraving Gem Stone: RONALD PENNELL
(フォト・エッセイ)宝石彫刻。カラー図版1点・モノクロ図版1点。
175-188 Corn Dollies: LETTICE SANDFORD
(フォト・エッセイ)英国の伝統的麦わら細工。モノクロ図版15点。
189-195 The Social History of the Loo: ROY PALMER
(グラフィック・エッセイ)水洗便所の社会史。モノクロ図版3点。
196-201 Curiographs: ARCHIE MASON
(フォト・エッセイ)骨や鉱物など収集品を組み合わせて別のものに見立てて撮影。カラー図版2点・モノクロ図版6点。
202 Snowstorm: J. J. CURLE
(詩)詩1編。心の中の雪嵐。
203-219 Secret Passages: JEREMY ERRAND
(フォト・エッセイ)英国各地の秘密の抜け道。モノクロ図版11点。
220-227 Hitting the Hornuss: ROBERT TYRRELL
(フォト・エッセイ)スイスで行われるHornussenというゲーム。モノクロ図版6点。
228-256 The Saturday Book Pictorial Quiz: Olive Cook
(フォト・クイズ)写真を見て答えるオリーヴ・クック出題のクイズ。Edwin Smithのモノクロ写真53点。

 

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▲ロニー・バーカーの絵はがきコレクションから。

 

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▲1920年代アール・デコの象牙とブロンズ製の女性像。日本の「フィギュア」のように目は大きくありませんが,ポージングのセンスは通じるものがあります。肌を象牙で衣服をブロンズで表現していますが,現在ではワシントン条約で禁止されているため象牙ではもう作ることができません。

 

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紙ラベル以前に使われていた18・19世紀の銀製ワインラベルのコレクションから。

 

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92. 1972年の『土曜日の本』(2013年3月9日)

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●『土曜日の本』その32

1972年刊行の第32号。見返しはワイン色の紙で,パターンなどは無しです。本文用紙も色違いの紙は使わず,本文用と図版用のコート紙のみです。
今号では,第5号で行った企画「50年前の回顧」を改めて行っています。二番煎じですが,前回が1890年代回顧だったのに対し,今回は1920年代回顧になります。取り上げている題材は,1923年の都市郊外居住者の娯楽,アール・デコ全盛の1923年,1923年の自動車事情,録音の時代が到来した1923年のジャズ,映画の喜劇役者たち,ロンドンのサザーク地区で1923年ごろ行われていた室内遊び,コロンビアのサンアグスティンの遺跡彫刻群,輸送用の小型平底帆船,各通りごとの街灯の違い,シガレット・カードなどトレイディング・カードの収集,2ペニーの週刊娯楽読み物雑誌の世界,ジャック・ギブソンの廃材金属彫刻,17世紀肖像画に使われる首回りのレース飾り,19世紀末のマーティン窯の陶器,オリーヴ・クックによるエドウィン・スミスの回想などです。

序文で,『土曜日の本』のビジュアル面の要的存在だった写真家エドウィン・スミスが亡くなったことを報告しています。
『土曜日の本』は,初代編集長レナード・ラッセル(Leonard Russell)が1906年生まれ,引き継いだジョン・ハッドフィールド(John Hadfield)も1907年生まれ,常連寄稿者のフレッド・ベイソン(Fred Bason)が1907年生まれ,エドウィン・スミス(Edwin Smith)とオリーヴ・クック(Olive Cook)夫妻は1912年生まれ,ローレンス・スカーフェ(Laurence Scarfe)は1914年生まれと,第1次世界大戦前の1900年代に生まれた世代が中心になって作られてきた年誌です。
いわば,個人が30歳代なかばに立ち上げた個人経営のセレクト・ショップのような形で30年以上続いてきたわけです。1900年代生まれの世代が,ヴィクトリア期の前世代が世界中からかき集めた珍奇なものが仕舞い込まれた屋根裏部屋の荷物を調べたり,また,自分たちの若かったころ―1920年代を懐かしむ形で,思い切り後ろ向きに作られてきました。
大きな組織なら,10年ぐらいごとに経営陣が更新されていくのでしょうが,『土曜日の本』のなかでは,ます自分たちの楽しみということで,後継者を育て『土曜日の本』を継続させていこうという意思は薄かったようです。1970年代になると,中心メンバーが老年に入り,その世代が世の中から引退していき,『土曜日の本』からも「死」という形で退場する人たちが現れ始めます。

 

1972SaturdayBook_cover

 

『THE SATURDAY BOOK 32』の内容

THE SATURDAY BOOK
32
EDITED BY JOHN HADFIELD
PUBLISHED BY HUTCHINSON

THE SATURDAY BOOK was founded in 1941 by Leonard Russell and has been edited since 1952 by John Hadfield.
This thirty-second annual issue has been made and printed in Great Britain by The Anchor Press Ltd, Tiptree, Essex, and bound by Leighton-Straker Bookbinding Co. Ltd, London.
1972
ISBN 0 09 113290 8

ダストラッパー: Martin Battersbyのデザイン。コーティング。
箱: ダストラッパー同様。

『THE SATURDAY BOOK 32』の目次

001 half-title エルテ(Erté)による1923年の『Harper's Bazaar』誌用イラスト。
口絵: Paquinによる『Art: Gout: Beauté』のイラスト。
003 title page
005-006 Introduction: J. H.
後ろ向きが『土曜日の本』の基本姿勢。第5号(1945年)で「the panorama of fifity years ago」と題して1895年を特集したのにならって,50年前の「1923年」を特集。中心的な寄稿者のひとりだった写真家エドウィン・スミスが亡くなったことの報告。
007 Contents(目次)

009 FIFTY YEARS AGO 1923
010-036 1923: JAMES LAVER
(グラフィック・エッセイ)1923年の図像。エルテのファッション画,アステア姉弟,ツタンカーメンの発掘でエジプトブーム,アール・デコ,キュビズム,ジョセフィン・ベイカー,ノエル・カワードなど。カラー図版1点・モノクロ図版32点。
037-043 Suburban Nights' Entertainment: 1923: JOHN FOSTER WHITE
(エッセイ)1923年都市郊外居住者の娯楽。演劇,映画,音楽,スポーツ観戦,年中行事など。モノクロ図版4点。
044-071 Art Déco: MARTIN BATTERSBY
(グラフィック・エッセイ)アール・デコ全盛の1923年。アール・デコ再発見。カラー図版4点・モノクロ図版24点。
072-085 The Motorcar in 1923: G. N. GEORGANO
(グラフィック・エッセイ)1923年の自動車事情。現在のクラシック・カーとしての復活。モノクロ写真1点。LESLIE THOMPSONのモノクロ挿画6点。
086-093 Jazz in 1923: KENNETH ALLSOP
(エッセイ)1923年のジャズの動向。ルイ・アームストロング,ジェリー・ロール・モートン,ベッシー・スミスら初録音。
094-120 The Silent Comics: RICHARD BOSTON
(フォト・エッセイ)チャップリン,キートン,ロイド,W. C. フィールズ,マルクス兄弟,タチら喜劇役者たち。映画を中心に。モノクロ写真24点。
121-125 Indoor Games in Southwark
(エッセイ)フレッド・ベイソンの少年時代,ロンドンのサザークの室内遊び。

126 THE SATURDAY BOOK STORY
126-139 The Blossoming: ELIZABETH TAYLOR
(小説)長く両親を介護してきて両親の死をみとって,パートリッジさんは一人きりに…。REGINALD BRILLのモノクロ挿画4点。

140 THE SATURDAY BOOK ESSAYS ★ IN THE PICTURESQUE
141-152 The Statues of San Agustin: DAVID M. DAVIES
(フォト・エッセイ)アンデス山中にあるコロンビアのサンアグスティン(San Agustin)の遺跡彫刻群。カラー写真2点・モノクロ写真4点。
153-162 The Sailing Barge: JOHN LEWIS
(グラフィック・エッセイ)輸送用の小型平底帆船。ハウスボートに改良して愉しむ。PETER WARRENの写真2点,ZELMA BLAKELYの木版挿画4点。

163 THE SATURDAY BOOK ESSAYS ★ COLLECTORS' ITEMS
164-171 The Street Lamp: MILES HADFIELD
(グラフィック・エッセイ)各通りの街灯の違い。MICHAEL FELMINGHAMの挿画8点。
172-187 Joys of Cartophily: PETER SCULLY
(グラフィック・エッセイ)シガレット・カードなどトレイディング・カード収集。カラー図版4ページ・モノクロ図版5ページ。『土曜日の本』のエッセイには,14号の「JOYS OF THE JUNK SHOP」や29号の「JOYS OF THE JIGSAW」のように,「JOYS OF ~」というタイトルのものがあるのですが,ケヴィン・エアーズ最初のソロアルバムのタイトルが『Joy of a Toy』(1969年)で,共通する感覚があります。ちなみに『Joy of Cooking』は1931年刊行,『The Joy of Sex』は1972年刊行で,ともにベストセラーになります。
189-195 Tuppenny Heroes: DENIS GIFFORD
(グラフィック・エッセイ)2ペニーの週刊読み物娯楽雑誌の世界。ヒーロー,冒険,SF。モノクロ図版3点。
196-203 Jack Gibson's Scrap Metal Sculpture: H. H. BLANCHARD
(フォト・エッセイ)ジャック・ギブソンの廃材金属彫刻。モノクロ図版9点。
204-219 The Lace in the Portrait: SANTINA LEVEY
(グラフィック・エッセイ)17世紀肖像画に使われる首回りのレース飾りについて。カラー図版3点・モノクロ図版16点。
220-235 Martinware: JACQUETTA HAWKES
(フォト・エッセイ)19世紀末のマーティン窯の陶器。カラー写真1点・モノクロ写真11点。

237 VALEDICTION TO EDWIN SMITH
237-256 Photographer by Chance: OLIVE COOK
(フォト・告別)1971年12月29日に亡くなったエドウィン・スミスへのオリーヴ・クックによる回想。エドウィン・スミスの写真20点。庭園の壺・彫刻,グロッタ,ガラス窓の霜,建築装飾,飛行機雲,野道,草原の馬,木の根,岩,ゴンドラの装飾,愛猫,海辺の石,遠くの浜辺の人。

 

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▲アール・デコのページから。

 

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▲カード収集の愉しみのページから。

 

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▲妻オリーヴ・クックによるエドウィン・スミスの思い出。エドウィン・スミスが足にギブスをつけているとき鏡ごしに撮った自画像。やるせなさと愛嬌のある,いいポートレイトです。

 

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91. 1971年の『土曜日の本』(2013年3月8日)

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●『土曜日の本』その31

 

1971年の刊行。見返しは薄紫色の無地で,本文用紙に色違いの紙の使用もありません。
今号で取り上げているのは,都市の大道芸,19世紀末から20世紀初頭の子ども向け1枚刷りコマ割り漫画,ミュージックホールのコメディアン列伝,遊園地装飾のバロック指向,18・19世紀の暦や広告ちらしなどの大衆向け印刷物,ロンドンのサザーク地区での路上遊び・遊び歌,ウマイヤ朝時代の首都ダマスカスの栄光,1771年建設されたバースの集会場,モニカ・プールの木版で描く白亜・岩・貝,アンドリュー・グリマの宝飾時計,J. B. プリーストリーの喫煙術,サイモン・ホイッスラーのグラス・エングレイヴィング,絵画・彫刻・写真の幼女像・少女像,ヴィクトリア期の裸婦像,トマス・ハインズ・ベイリーのバラッド,19世紀初めカラブー王女と名乗る若い女が巻き起こした騒動,19世紀末のアメリカのピンアップガール,死刑台に上った女性たちなどです。

『土曜日の本』は基本的にクリスマスシーズンのプレゼント用の本なので,エロティックであったりグロテスクであることに対して控えめなのですが,今号では死刑台に上った女性たちを取り上げて,どこか不穏です。

 

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『THE SATURDAY BOOK 31』の内容

THE SATURDAY BOOK
A RAREE SHOW OF ART AND ENTERTAINMENT(藝術と娯楽のぞきからくり)
31
EDITED BY JOHN HADFIELD
& PUBLISHED BY HUTCHINSON

ISBN 0 09 109050 4

THE SATURDAY BOOK was founded in 1941 by Leonard Russell and has been edited since 1952 by John Hadfield.
This thirty-first annual issue has been made and printed in Great Britain by The Anchor Press Ltd, Tiptree, Essex.
1971

ダストラッパー: Philip Goughのイラスト。コーティング。

『THE SATURDAY BOOK 31』の目次

口絵: Benjamin Robert Haydon画『Punch or May Day』(1829)から。
003 title page
005-006 Introduction: J. H.
過ぎ去りしものの記憶。現在の読者のうちどれくらいの読者がレナード・ラッセル編集時代の『土曜日の本』を知っているのだろうか。スクラップ帳的なフォーマットは第3号から,図版パートが128ページに増量された第4号から『土曜日の本』の現在は始まった。4号から当時無名の写真家エドウィン・スミスも登場。この次々と変わっていく世界ではあるが,変わることなく普通でないものの詰め合わせであり続ける『土曜日の本』を支持してほしい。
007 Contents(目次)

009 The POPULAR ARTS
010-031 The Entertainment of the Streets: GEORGE SPEAIGHT
(グラフィック・エッセイ)都市の大道芸。カラー図版2点・モノクロ図版15点。
032-051 Tuppenny Coloureds: DENIS GIFFORD
(グラフィック・エッセイ)19世紀末から20世紀初頭にかけての子ども向け1枚刷りコマ割り漫画の世界。白黒1枚1ペニー,色刷り1枚2ペニーが通例。「d.」はペニー・ペンスの略号。古代ローマ銀貨のデナリウス(denarius)から。カラー図版3点・モノクロ図版10点。
052-071 Making Them Laugh: PAUL JENNINGS
(フォト・エッセイ)ミュージックホールのコメディアン列伝。カラー図版1点・モノクロ図版15点。
072-086 Fairground Baroque: OLIVE COOK
(フォト・エッセイ)遊園地装飾のバロック指向。EDWIN SMITHのモノクロ写真19点。
087-104 Popular Printing: JOHN LEWIS
(グラフィック・エッセイ)18・19世紀の暦や広告ちらしなどの大衆向け印刷物。2色図版11点・モノクロ図版9点。
105-112 Street Games in Southwark: FRED BASON
(エッセイ)フレッド・ベイソンの少年時代,ロンドンのサザーク地区での路上遊び,遊び歌。

113 STUDIES in the Picturesque
114-125 The Glory of Damascus: COLIN THUBRON
(エッセイ)ウマイヤ朝時代の首都ダマスカスの栄光。モノクロ写真2点。
126-132 The Assembly Rooms at Bath: V. C. CHAMBERLAIN
(グラフィック・エッセイ)1771年建設されたバースの集会場。MICHAEL FELMINGHAMのモノクロ挿画3点。
133-137 Chalk, Rocks & Shells: MONICA POOLE
(グラフィック・エッセイ)白亜,岩,貝。モニカ・プールの木版挿画5点。
138-139 Costa Blanca: JOHN BETJEMAN
(詩)詩1編。スペインのコスカブランカでの暮らしを夢見る女と現実的で消極的な男。LORD ROSSMOREのモノクロ写真1点。

TREASURES AND PLEASURES
140-151 Watches as Jewels: ANNA MOTSON
(フォト・エッセイ)アンドリュー・グリマ(Andrew Grima,1921~2007)デザインの宝飾時計。FRANK GRIMAのカラー写真7点・モノクロ写真11点。
152- The Art of Smoking: J. B. PRIESTLEY
(エッセイ)喫煙,おもにパイプ煙草について。カラー写真1点。
160-167 Musician-Engraver THE ENGRAVED GLASSES OF SIMON WHISTLER
(フォト・エッセイ)ローレンス・ホイッスラーの息子,サイモン・ホイッスラー(1940~2005)のグラス・エングレイヴィング。モノクロ写真7点。サイモン・ホイッスラーはヴィオラ奏者。

The FEMALE IMAGE VIEWED FROM SEVERAL ASPECTS モノクロ図版1点。
168-182 Little Angel: ROGER PINKHAM
(グラフィック・エッセイ)絵画・彫刻・写真の幼女像・少女像。カラー図版2点・モノクロ図版8点。
183-199 Victorian Nudes: JEREMY MAAS
(グラフィック・エッセイ)ヴィクトリア期の裸婦像。カラー図版2点・モノクロ図版10点。
200-205 Bayley Ballads: THOMAS HAYNES BAYLY(1797~1839)
(詩)19世紀初めの作家トマス・ハインズ・ベイリーが曲に付けた歌詞。モノクロ図版2点。「Long Long Ago」は文部省唱歌「久しき昔」として知られています。
206-215 The Strange Case of Princess Caraboo: CHARLES NEILSON GATTEY
(エッセイ)1817年遠くの島から来たという「カラブー王女(Princess Caraboo)」と名乗る若い女が英国で巻き起こした騒動。モノクロ図版1点。
216-235 American Pin-Ups 1870-1900: PHILIP KAPLAN
(フォト・エッセイ)1870~1900年のアメリカのピンアップガール。Sarony,Howell,Mora,Falkらのモノクロ写真31点。
236-256 Ladies on the Scaffold: CHARLES GIBBS-SMITH
(グラフィック・エッセイ)死刑台に上った女性たち。モノクロ図版20点。

 

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▲多色版1枚もの漫画。右の英国版ミッキーマウスは普段はWilfred Haughtonが描いていますが,1937年のこの号はジョージ6世即位記念ということで,ディズニー本人が原画を描いています。

 

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▲19世紀前半の印刷物からマーダー・バラッド。

 

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▲アメリカのピンアップガールのページからファンタジーもの。

 

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▲死刑台の女性のページから。左はリンカーン暗殺(1865年4月14日)の共犯者メアリ・サラットの絞首刑(1865年7月7日)。右は,ロシアのアレクサンドル2世暗殺(1881年3月13日)にかかわったソフィア・ペロフスカヤらの処刑(1881年4月15日)を描いたフランスの『L'Illustration』紙1881年4月30日号から。

 

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